自分の口座からお金を引き出すために銀行強盗
SNSの普及により、自身の犯罪の一部始終をネットで中継するという行為が起こるようになった。その意図は単に目立ちたいだけだったり、自分の主義主張を世に知らしめるためだったり、逆に本来の目的を隠蔽させるためだったり、と色々ある。
しかし、今回のようなパターンは非常に珍しいのではないだろうか。
この写真の女性は銀行を襲撃した。その要求は“自分の銀行口座から自分のお金を引き出す”こと!
中東・レバノンの首都ベイルート。9月14日水曜日の午前中、サリ・ハフィズさんは”Depositors Outcry Association(預金者問題対策協議会)”と名乗るグループの男たちと一緒に銀行を襲撃した。銃を片手にカウンターに飛び乗った彼女の要求は、
”私のお金を引き出させて!”
彼女の要求は、自分の貯金から1万3000ドル(約190万円)を引き出すこと。その使い道は彼女の妹のがん治療のためだという。
この動画はレバノンのソーシャルメディアで広く拡散されたもの。男たちが銀行員と口論する中、ハフィズさんがピストルを取り出す様子が映し出されている。銀行員が慌てて紙幣を数え、米ドル札の束を彼女に渡す様子が映っている。
経済崩壊による引き出し制限
当たり前だが、人は銀行から自分の貯金を引き出すのにこのような強硬手段を必要としない。しかし、ここはレバノン。
日本ではカルロス・ゴーン被告の逃亡先として有名だが、同国経済は2020年3月のデフォルト以降、完全に崩壊している。
政府は現金の引き出しに厳しい制限を課しており、国民は月に200ドル(約2万8千円)から400ドル(約5万6千円)程度しか自分の口座から引き出すことが出来ないのである。これは基本的な生活必需品をカバーするのがやっとの状態で、今回の件と類似の銀行襲撃事件が頻発しているという。
地元放送局Al Jadeed Newsのインタビューでハフィズさんは
”私は誰かを殺したり、この場所に火をつけるために銀行に押し入ったのではない。私は自分の権利を得るためにそうしたのです”
と述べている。そして襲撃に使用した銃は甥っ子から借りた『おもちゃの銃』だったと語っている。
ハフィズさんは現時点ではレバノン治安部隊に逮捕はされておらず、Facebookの投稿によるとトルコ・イスタンブールへ逃れるつもりだそうだ。何とも不条理なこの状況。心が痛むが、彼女と彼女の妹が無事であることを祈りたい。