禁止薬物「MDMA」が処方される?
2016年11月、アメリカの一部の州で大麻が合法化され、日本でも大きな話題になった。
日本では未だに禁止薬物として指定されており、「吸ったら死んでしまう」「中毒になって廃人になる」というイメージが抜けない人も多いだろう。
こうした世界的に始まっている薬物容認の動きに、新たに一つ新勢力が加わる。
MDMA。通称「エクスタシー」として知られる合成麻薬だ。
多幸感や愛情を感じやすくなることから、若者たちの間でパーティドラッグとして人気な合成麻薬だが、格安で流通する粗悪品で中毒症状を起こす者や、死に至る者も少なくない。
edamameで先日公開した、パーティの島・イビサ島で売られるドラッグについての記事を読んでいただければ、欧州のドラッグ事情がよくわかるだろう。
そんな中、先日アメリカ食品医薬品局によってMDMAがPTSD(心的外傷後ストレス障害)への画期的治療法として認められたのだ。
PTSDは、戦争や災害、事故や虐待などといった精神的衝撃が原因で、不眠・強い恐怖・無力感・フラッシュバックといった症状が現れるストレス障害である。虐待を受けた過去を持つ人や、災害の生存者、帰還兵に多く発症している。
こうした患者たちへMDMAを投与すると、セロトニンやドーパミンが体内で放出される。そのため幸福感を感じ、ポジティブな思い出を呼び起こせるのと同時に、辛い記憶も引き出しやすくなる。
通常の状態で辛い記憶を思い出すと、当時の衝撃を再体験し更に恐怖は強くなるが、MDMAを使用したポジティブな状態で思い出せば、苦痛なく心の傷と向き合うことができるのだ。
非営利組織「幻覚剤国際研究学会(MAPS)」が2016年までに行った小規模臨床試験では、参加したPTSD患者のうち67%に顕著な効果があったのだという。逆に、MDMAを使わない対照実験では23%しか効果が見られなかった。
MAPSは18歳以上の患者200人から300人を集め、アメリカ本国のほか、カナダ、イスラエルで第3次臨床実験を予定している。
そのため資金を募集中で、約27億円(2500万ドル)を目標金額としているが、現段階では約13億5000万円(1250万ドル)と不足している。資金集めが完了すれば2018年に臨床実験を開始できるとのことだ。
最短で2021年に結果報告書をまとめられ、処方に向けて大きく動き出すという。
一方で懐疑的な意見も
▲結晶状のMDMA。
処方を容認しようという動きには、批判する意見もある。
イギリス・ウェールズ大学の心理学者によると、「このニュースはMDMAは心身の問題を解決する助けになる印象を受けるが、実際には逆に問題を起こすことのほうが多い」のだという。
過去にも、MDMAは効果が切れるとセロトニンが使用前より80%も減少しており、深刻な気分の落ち込みや鬱状態を引き起こしているという研究結果が出ている。そのため、反動によって自殺に走る者も少なくない。
このような目に見えた悪影響が目立つ現状では、PTSDへのセラピーで治療効果が認められたとしても、使用に積極的になる人は少ないだろう。MDMA容認までの道のりはかなり険しいものとなるかもしれない。