中学生。
それは、思春期真っ只中。
こころもからだも成熟し、子供から大人へと変貌を遂げていく時期である。
そして、思春期といえば、恋。
異性に対し、過度に意識をしてしまうお年頃で、成長過程のこころの不安定さゆえに、しばしば奇行に走ってしまう者も多い。
(例:額にマジックで「邪眼」を書き、後で思い返すと死にたくなるような黒歴史を生み出してしまうなど)
今日は、私(吉川ばんび)が中学生の頃に出会った思春期の少年の話をしたい。
西田くん(仮名)は、同じ中学校の同級生だ。
特別目立つ存在ではないが、華奢で色も白く、まだ幼さが残る中学生だった。互いに顔は知っていたが、同じクラスになったこともないので、言葉を交わす機会もなかった。
そんなある日、友人伝いに西田くんから「メールアドレスを教えてほしい」と言われたのである。
当時はスマートフォンやLINEもまだ普及しておらず、友人たちとのやりとりは、携帯電話のメールが主流だった。
特に断る理由もなかったため、西田くんにメールアドレスを教えることを了承したところ、1時間と経たずに西田くんからメールが届いた。
「いきなりごめんな〜!(ワラ アドレス教えてくれてありがと(^O^)」
ここで、若年層の読者のために解説する。
「ワラ」とは、今で言うところの「(笑)」のことであり、10年以上前の中高生の間では、「ワラ」が日常的に使用されていたのだ。
もしかして「ワラ」のことなんて今の若い子は知らないんじゃないか? と思い、現役の大学生に聞いてみたところ、案の定「なんすかそれ(笑)僕らの世代じゃないっすよそれ(笑)いつの時代なんすかそれ(笑)」と言われた。こわい。もしかして「前略プロフィール」とか知らないのこの子たち……?
西田くんのメールに話を戻す。
なんの変哲もないメールだったので、こちらも「全然! よろしく!」とだけ返信を返し、その日はこのやりとりだけで終わった。
「直接話をしたことがないのに、同級生とメールだけでやりとりをしている」と聞くと、なんだかおかしいと思う方も多いかもしれない。
しかし、中学生にメールが普及し始めた当時は、「メル友」のような形で、メールだけの関係も特にめずらしくはなかったのだ。
基本的にはそこから、実際に直接話をしたりして仲良くなっていく流れなのだが、西田くんの場合は少し違った。
校内ですれ違うことがあっても、「絶対にこちらを見てくれない」のだ。
視線を向けてみても、手を振ってみても、頑なにこちらを見ずに早足で通り過ぎるのだ。
「照れ臭いのかな?」と思いあまり気にしないようにしていたのだが、そうしているうちに、西田くんは予想外の行動に出始めた。
それは、頻繁に、メールを送ってくるようになったのだ。
学校ではすれ違っても目も合わせてくれない彼が、メールを2日に1回のペースで送ってくるようになった。
その内容も、学校で見かける彼とは思えないような内容ばかりだった。
「やっほ〜! 今度花火大会あるらしいねんけど、よかったら一緒に行かへん?(ワラ」
「吉川に久々に会いたいわぁ〜^_^;(ワラ」
学校で!!! 毎日!!! すれ違ってるよ!!!
「学校での西田くん」と「メールでの西田くん」のキャラが違いすぎて、「もしかして送信相手を間違えてるんじゃない?」と思ったけれど、そういうわけでもなかったらしい。
さすがに直接話したことがない相手と2人で花火大会に行く勇気はなかったのでお断りしたのだが、西田くんはさらにエスカレートしたメールを送ってくるようになった。
−−−−−−「ポエム」である。
差出人:西田くん
件名:運命の人
本文:この広い世界の中で
僕らはひとりきり泣いていた
誰もわかっちゃくれない
ずっとそう思ってた
でも 僕たちは出会ったんだ
君は僕の運命の人(ヒト)
それはまるで神様の贈り物
もうひとりきりで泣くのはやめよう
僕たちは同じ人生(みち)を歩くんだ
※うろ覚えだけどこんな感じのポエムが届きました。
当時、このメールを受信したとき、
「やっちまった西田くんんんんんんんん!!!!! 無茶しやがって……!!!!」
と思っていたのだが、ポエムは一度きりではなかった。
2日に1度届くメール以外に、ポエムは1週間に1作品送られてくるようになった。
どう返信すればいいのかわからず、次第に私は返信をしないようになった。
そして、とうとう一度も言葉を交わすことなく、私たちは中学校を卒業し、別々の高校へ入学した。
さすがに頻度は落ちたものの、西田くんからのメールは、私が成人する頃まで届いた。
メールアドレスを変更しても変更しても、必ずどこからか情報を入手して、メールを送ってきた。
メールの内容ははっきりは覚えていないが、「あの頃、俺たちは不器用だったけど、これからまた幸せになれると思うんだ」みたいな、「あれ? 私たち付き合ってたっけ?」という感じの、元カレが元カノへ送るような内容だったことは覚えている。
何でそうなったのかは本当にわからないし、何ならちょっとこわかった。
今思い返せば、中学生特有の「若気の至り」でメールを送ってきていたわけではなく、彼は極度の照れ屋で、ロマンチストなだけだったのかもしれない。
あれから数年。もう西田くんからメールが届くことはなくなった。
しかし、いまだに、あのとき私はどう反応をしてあげればよかったのかがわからない。
多分、私自身がまだ幼かったからだ。
西田くんはもう、このことを忘れているかもしれない。
あるいは、ポエムの内容を思い出しては毎晩枕に顔を埋めて、記憶を抹消したいと思っているかもしれない。
西田くんにまた会うことがあったら、絶対に話しかけてみようと思う。
また、もし独特なアプローチをしていた・されていたという人がいれば、情報をお寄せください。
もしおもしろい体験談が集まれば、記事として紹介させていただきたいと思います。