3月3日は雛祭りだった。
雛祭りは”女の子のための日”と言ってもいいだろう。
東に困っている女の子がいれば、「どうしたんだい?」と声をかけ、西に悩んでいる女の子がいれば、「そういうときはね」と助言をする、そんな女の子の良き理解者である俺は、より理解を深めるために、雛祭りという日に、女の子の大好物であるパンケーキを食べに行ってきた。
やって来たのは、”幸せのパンケーキ”というお店である。
なんでも、今、雑誌やテレビなどで多く紹介されている女性に大人気のパンケーキ専門店だそうだ。
実は、今回、この”幸せのパンケーキ”に訪れた理由は、女性への理解を深めるための他に、もうひとつの理由がある。
それは、edamame.の女性読者の大量獲得だ。
「女性に人気のパンケーキを記事にすることで、女性読者の獲得に繋がるに違いない」
やはり、edamame.の次なる成長を考えると、必要なのは”女性読者の獲得”であろう。
”人気の陰に女性あり”
こんな言葉があるように、人気のコンテンツになっていくうえで、女性層の獲得は必要不可欠なのである。
「今回の記事で、少しでも女性読者の獲得に繋がればいい」
俺は常に、edamame.のことを考えている男である。
「edamame.ライターの鏡」「ミスターedamame.」「ビールのつまみ」等々、そう言った讃辞の声が今にも聞こえてきそうだ。
一応言っておくが、決して、女性読者を獲得した暁には、「パンケーキを私と一緒に食べに行きましょう」という、女性読者からのお誘いが続々と舞い込むことを期待しているわけではないし、「あれ、もしかして記事にすればパンケーキ代が経費という形で落ちるのでは?」という甘い考えをもっているわけではない。
もう一度言うが、俺は常に、edamame.のことを考えている男である。
しかし、誘われればパンケーキを食べにも行くし、経費で落ちるならば落としてもらっても構わない、俺はそういう柔軟性も持っている男でもある。
店内に入ると、さすがに女性に人気のお店だけあって、白を基調とした、明るく清潔感のある内装になっていた。
そして、お店の前に女性たちが大勢いたので嫌な予感はしていたのだが、客は俺以外、全員女性であった。
もっと言うと、店員までも全員女性であった。
まさに”女性による女性のためのお店”というような雰囲気。
「なるほど、カフェ気分で来るところではないのだな」
俺は、すぐさま気軽に一人で来たことの後悔の念に駆られた。気分はまるで、女性専用車両に乗り込んでしまったようだ。
いつしか「男は出て行け!」「気持ちが悪い!」との声が聞こえ始め、終いには「かえーれ!かえーれ!」と、店内で大合唱が始まるのではないか。
ツイッターに「男一人でパンケーキがいたw」と写真付きで呟かれるのではないか。ネットの掲示板に「【悲報】怪人・パンケーキマン現るww【恐怖】」というスレッドが立てられるのではないか。
考えれば考えるほど、とてつもない恐怖に襲われていた。女性は時として、凶暴かつ残忍な生き物である。このままでは、俺にとって幸せどころか「不幸のパンケーキ」になりかねないだろう。
本来ならば、すぐさま帰りたいところではあるが、俺はedamame.ライターという肩書を背負っている男だ。
今回やるべきことは、カメラで店内の写真や美味しいパンケーキの写真を撮り、詳細な感想を綴ること。
そして、それが女性読者の大量獲得に繋がるのだ。そのためならば、すべての羞恥心を捨てよう、すべてはedamame.のため・・・・
しかし、その後、俺がカメラを手に取ることはなかった。
「takaヒヨッてんじゃねーよ」「ビビったのかよ」
待て。
俺は思う。
果たして、女性読者を獲得するために単純にパンケーキに頼っていていいのだろうか、と。
やはり何物にも頼らず、我が道を行くのが、edamae.ライター道なのではないか、と。
確かにパンケーキを使えば容易く女性読者を獲得できるかもしれない。
だが、それは真の読者なのであろうか。上っ面だけの読者なのではないだろうか。
そんな読者よりも、自分の書きたいことを書き、それに付いてきてくれる読者を男女問わず大切にすべきではないだろうか。
俺はそのことに、はたと気が付いたのだ。そのため、俺はカメラを使用することを控えたのである。
「なんつーか、考えが浅はかだったわ」
写真をこのように1枚撮ったら、
隣にいた3人組の女性グループにくすくす笑われて心が完全に折れたわけではない。時として、自らの愚かさに気づけば、考えを180°変えることも必要だということだ。
そうだ、俺は柔軟性を持っている男なのだ。
「必要なのは女性読者ではない、真の読者なのだ」
俺はそう自分に言い聞かせた。
「もう一人では行かない!絶対に行かない!」
そうも小声で言い聞かせた。
え?パンケーキの味?
なんか、ふわふわですごく美味かったですよ。