家の近所で、連日、変質者が現れるという凶悪な事件が発生している。
その変質者が”下半身を見せし者”なのか”体を触りし者”なのか、どのような恐るべき変態能力を備えているのかは不明であるが、そのせいで、周囲の小学校では保護者が迎えに来たり、集団下校までしていたそうである。
まったく、けしからん話だ。
噂では、男性で年齢は30~40代。
現場は、駅から離れているし、なかなか入り組んだところなので、おそらく土地勘のある、地元の人間の仕業に違いないとのことである。
しかも白昼堂々の犯行とのことだ。
・・・・あれ、まって、俺じゃないですよ。
確かに、夜な夜な、裸同然の姿で白ブリーフを頭に被り、白目を剥いて、
両手でお尻を叩きながら「びっくりするほどユートピア」「びっくりするほどユートピア」と
大声をあげながら、ベッドの上をぴょんぴょんと跳ね回ったりしているが、
これはあくまで、個人で楽しむ範囲のことである。
誰にも迷惑はかけていない。
もしもこの世に、悪い変態と良い変態がいるとするならば、俺は間違いなく後者のほうだ。
例え、疑いをかけられ、警察が訪ねてきたとしても
「ぜぜぜ絶対に、おおおお、俺じゃないですよよよ」
と、俺は自信満々に言うだろう。
そういえば、変質者で思い出したのだが、今から6,7年くらい前だろうか。
俺が出版関係の仕事をしていたときに、怪しい人物が会社を訪ねてきたことがあった。
その人は清潔感に満ち溢れ、黒髪に眼鏡でとても真面目そうな男の人だった。
そんな彼は、俺の姿を見つけるとスタスタとこちらに歩いてきて、こう言った。
「光の国から参りました」と。
「ひ、光の国・・・・」
俺は開いた口が閉まらなかった。
だが、それと同時に、すべてを理解したという。
もはや皆さんにとっては、周知の事実だと思うが、その頃の俺はとても可愛らしい外見をしていて、天使と見間違うほど、いや、天使そのものであった。
「takaが歩いた後には羽毛が落ちている」「takaを写真に撮ると光の羽のようなものが写る」とはよく言われたものだ。
実のところ、彼の「光の国」という言葉で、
「ああ、ついに光の国の使者が、俺を迎えに来たのだな」
と、察していた。
人間が地上に住むように、天使は天界に住むものなのだ。
こればかりは、しょうがない。
俺は、たまたま手違いにより、地上に生まれてしまった天使だったのだ。
「いつかは来ると思っていたが・・・別れは急なものだな・・」
俺はそう思いながらも、悲しみの涙を隠し、
上司に「光の国から来たという男がいる」ということを報告をしに行った。
「何を言ってるんだ?」「馬鹿にしているのか?」
もちろん、そう言われるのは覚悟の上だ。
なぜなら、天使の存在は人には信じられていないのだから・・・。
しかし、上司からの反応は意外なものであった。
「ああ、光の国の人な」
まったく驚くこともなければ、まるで当たり前のことような反応であった。
俺は、思わず「光の国のことを知っているんですか?」「光の国とは!」と問いただすと、
上司はこう答えた。
「”光の国”という出版社があるんだ、そこの営業の人だ」
「光の国は・・・出版社・・・」
どうやら、俺は天使ではなかったようだ。
ほっとしたのだが、少しばかりの恥ずかしさにも包まれたことを今でも覚えている。
そして、肝心なことなのだが、俺は天使でもなければ、変質者でもないということを、強く、強くここに宣言しておきたい。
一刻も早い変質者の逮捕を願っている。