オウム死刑囚が死の前に考察した「金正男暗殺事件」の真相が話題に

カルチャー

オウム真理教を支えた「科学班」の頭脳たち

7月6日、オウム真理教の元代表・麻原彰晃死刑囚および6人の幹部達の死刑が執行された。

教団の前身はヨガのサークル的なものであったが、霊的な力を持つとされる麻原氏を教祖としてカルト化。その後「救済活動」と称し、テロや殺人事件を繰り返した。

1995年には、東京都内の地下鉄で毒ガス「サリン」を散布、13人の死者と6000人以上の負傷者を出す歴史的な事件となった。

当時のニュースでは、麻原氏だけでなく、高学歴で優秀な教団の幹部たちにも注目が集まっていた。

オウム真理教には、教団での修行に使う覚せい剤や、サリンを初めとする化学兵器を製造する「科学班」が存在。今回麻原氏とともに死刑が執行された、土谷正実氏・遠藤誠一氏・中川智正氏の3人は、化学兵器開発の中心人物であった。

3人ともに難関国立大学を卒業しており、自然科学に強い興味を持つ勉強熱心な人物たちだった。

死刑囚が獄中で考察した「金正男VXガス暗殺事件」

地下鉄サリン事件の少し前、オウム科学班は、毒ガス「VX」の開発に成功。1994年12月12日、教団からスパイ容疑をかけられた会社員が、VXにより殺害された。VXでの殺人事件は世界初であり、世界中のメディアが報道した。

その後VXは、1997年の化学兵器禁止条約により、使用・製造・保有が禁じられることになった。

しかし、2017年2月13日、北朝鮮の金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺された事件において、VXの使用が示唆された。ベトナム人とインドネシア人の二人の女性が容疑者と言われているが、その方法については明らかになっていない部分が多い。

死刑囚であった元オウム科学班の中川智正氏は、獄中でこの暗殺事件について考察。その内容が今年5月、学術論文として発表された。

死刑囚と毒物専門家の特別面会

論文は、コロラド州立大学名誉教授で毒性学の専門家アンソニー・トゥー教授の支援により発表。

アンソニー教授は地下鉄サリン事件の際、日本の警察当局にサリンの分析方法を指導するなどで活躍した人物である。

毒性学の専門家として、オウム真理教の科学者たちが、サリンやVXガスの製造に至った背景を知りたい─その思いから、アンソニー教授は、投獄された中川氏と10回以上の特別面会を重ねていた。

金正男氏の暗殺が報道された後、中川氏は弁護士を通して、アンソニー教授に手紙を送った。

その内容は、金氏の呈した症状がVXによる症状と矛盾が無い事、VXの性質から金氏に直接付着させることが可能であること、また肝臓・血液・尿以外に脳からもVXを検出できる可能性などを鋭く指摘した内容であったという。

発表された論文では、被害者である金氏、および容疑者である二人の女性より検出された化合物から、金氏の暗殺方法について論理的に推察している。

バイナリーシステム

VXガスは強力な兵器であるが、毒性が高すぎて、ガスの状態で持ち運ぶには危険すぎるという欠点がある。オウムは、VXがガス化しないように冷凍した状態で持ち歩いていた。

この問題を解決する一つの手法として、「バイナリーシステム(混合型兵器)」というものがある。

持ち歩く際には、2つの毒性の低い液体としておき、使用する際にそれらを混合してVXガスが発生するようにする、というシステムである。

今回の金氏の暗殺においても、容疑者であるベトナム人と、もう一人のインドネシア人からは別々の化合物が検出されており、その2つの化合物を混合することでVXガスの生成が可能であるということから、バイナリーシステムが利用されたのではないか、と中川氏は考察している。つまり、最初の女性が金氏の顔に液体を塗りつけ、そのうえに別の女性がまた液体を塗りつければ、VXガスが生成されるということだ。

画像はイメージです

この考察が正しいかどうかはわからない。しかし、中川氏が豊富な知識と鋭い観察眼を持っていたことは明らかだろう。

もし彼がその類まれなる頭脳を正しい方向に使っていたら、一体どんな研究成果をもたらしてくれたのだろうか。

参照元:Chem-StationHUFFPOST、Twitter[1][2]

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