とある6歳児の素朴な疑問
日本は「理科離れ」の傾向にあり、とにかく、子供が「理科を楽しいと思わない」ことが問題になっている。
理科は、世の中に起こる不思議なことを説明するための重要な手段。これを楽しむためには、「なんで?」と疑問を持ち続ける事が大切である。
今、とある6歳児のささいな「なんで?」が、ツイッター上で話題になっている。
ひとつのツイートが思いがけない繋がりを生む
ツイッターユーザーの爽さん(@sou0821)は、元素図鑑を読んでいた6歳の息子さんから、次のような質問をされたそうだ。
「亜鉛とビスマスの原子量を足すと274.35なのに、本にはニホニウムの原子量が284と書いてあった。なんで?電子で原子量が増えたのかなぁ?」
文部科学省の学習指導要領に「原子」の文字が出てくるのは中学理科から。6歳の子にしてはかなり早熟な疑問であるかもしれない。
原子量は、原子の重さを表現するもの。ニホニウム原子は、亜鉛原子とビスマス原子を合体させて(ぶつけて)作ったものなのに、原子量が単純な足し算で表せないことに疑問を持ったようである。
回答に困った爽さんは、「どなたか教えてください」とツイッターにこの質問を投稿。すると驚く事に、ニホニウムを創り出した理化学研究所・仁科加速器科学研究センターの公式アカウントより、返信が来たのである。
本にニホニウムの原子量が284と書いてあったのですね?確かに https://t.co/zyKlAhZUNK にもそう書いてありますね。これはきっと陽子113個、中性子171個のNhの事を言っているのでしょう、ロシア米国連合が作りました。一方、理研は陽子113個、中性子165個のNhを作りました。
— 理研 仁科加速器科学研究センター (@Nishina_Center) 2018年7月20日
さて、亜鉛には質量数64,66,67,68,70の5種類あり、理研のNh合成には70を使いました。Biは209なので、足すと279になります。出来たての熱いNhを冷ますために中性子を1個放り出して278。これが理研で作ったNhです。ロシア米国連合は別の元素を使ってNhを作りました。
— 理研 仁科加速器科学研究センター (@Nishina_Center) 2018年7月20日
亜鉛のようにニホニウムにも種類があります。いま見つかってるのは278,282,283,284,285,286。どれもすぐに壊れてしまう放射性同位元素、その際半減期が長いものを原子量の代わりに記すことがあります。それは286(10秒)のはずですが、285,286が見つかったのが最近なので、284のままなのかもしれません。
— 理研 仁科加速器科学研究センター (@Nishina_Center) 2018年7月20日
ニホニウムは、亜鉛とビスマスの組み合わせ以外に、別の元素でも作ることができる。また、同じ元素でも、原子量が異なるものが存在することがあり、このような元素を同位元素という。一般的に、同位元素の中で、最も安定な元素の原子量が、本などに表記される。
実際にニホニウム作成に使われた原子の原子量と、本に載っている原子量との間に齟齬があったため、「単純な足し算で表せない」という矛盾が起こってしまったのである。
ちなみに、「同位元素」について学習するのは高校化学から。かなりハイレベルな回答であるが、爽さんの息子さんは、理研からの返信に喜んだそうだ。
息子さんに喜んで頂けてとても嬉しいです。
— 理研 仁科加速器科学研究センター (@Nishina_Center) 2018年7月20日
この理化学研究所の対応に、「すばらしい」「ツイッターのとても良い活用法」「すごい時代になった」と賞賛の声が多くあがっている。
また、爽さんの息子さんについても、「これからも疑問を持つ心を大事にしてほしい」「将来が楽しみ」とのコメントが寄せられていた。
爽さんの息子さんは、「なんで?」の多い子であるという。子供の質問攻撃に対して、流したりごまかしたりしがちな大人が多い中、爽さんは、「夏休みですし、息子の好きな分野のことなので、頑張って一緒に調べてやりたいと思います。」とツイッター上で語っている。