【助走が長すぎる!】ボールを1球投げるため100km走った男の目的とは?

おもしろ

クリケットの投手がボールを投げる際、勢いをつけるために走る「助走」。普通ならほんの数秒、距離にして数十メートル程度で終わるものだ。

ところがイギリスには、「それなら100kmくらい助走してみよう」と考えてしまった男がいた。100メートルではない。100キロメートルである。

もはや助走なのか、ウルトラマラソンなのかよく分からない。

ロンドンから100km先まで「助走」する

このとんでもない挑戦を行ったのは、イギリス・サリー州に住む22歳のクリケット選手、サム・ボドアノさん。

2026年8月末、ボドアノさんはクリケットの聖地として知られるロンドンのローズ・クリケット・グラウンドを出発した。目的地はサリー州ウォキングにあるヴァレー・エンド・クリケット・クラブ。その距離、約100kmである。

しかも普通のランニングではない。世界記録への挑戦として成立させるため、ボドアノさんはクリケットの白いユニフォーム姿で、これから投げるボールを手に持ったまま走り続けた。


本人のInstagramには、白いクリケットウェア姿で走り続ける様子が残されている。夜中のロンドンを、クリケットボールを握った白装束の男がひたすら走っているのだから、事情を知らない人が見たらなかなか理解しがたい光景である。

なぜなら100km全部が「助走」だから

ボドアノさんが狙ったのは、「クリケットの投球における最長の助走」という世界記録だった。

つまり、100km走ってゴールすれば終了というわけではない。100kmはあくまで「ボールを投げる前の助走」なのである。そのため100km先には、ちゃんと11人制のクリケットの試合が用意されていた。

普通の投手なら「よし、投げるぞ」と思ってから数秒後にはボールを投げている。しかしボドアノさんの場合、「よし、投げるぞ」から実際に投げるまで約14時間かかった。

夜通し走り、ついには街灯に激突

深夜にロンドンを出発したボドアノさんは、夜通し走り続けて100km先のクリケット場を目指した。当然ながら疲労も相当なものだったようで、午前5時すぎには撮影しながら歩いていた本人が街灯にぶつかってしまう場面まであったという。

それでも本人は「いいコンテンツになったでしょ?」と笑っていたそうだから、なかなか逞しい。

そして約14時間後、ついにヴァレー・エンド・クリケット・クラブへ到着。後日の本人インタビューによれば、到着したのはなんと試合開始のわずか1分前だったという。

普通なら100kmを走り切ったところで「完走しました!」と地面に倒れ込むところだろう。しかし彼の場合、まだ肝心の仕事が残っている。

まだボールを投げていない。

100km先で待っていた打者は……父親

そしてついに、100kmに及ぶ「助走」の最後の数メートル。ボドアノさんはピッチへ走り込み、14時間にわたって手にしてきたボールを投げた。


その記念すべき1球を、バットを構えて待っていた人物は――彼のお父さんだった。

100km走った息子。そのボールを打つ父。なんとも壮大な親子のキャッチボール……いや、クリケットである。

しかもボドアノさんの仕事はこれでも終わらない。世界記録挑戦の条件を満たすため、そのまま試合にも選手として参加したという。

そもそも、なぜ100kmも走った?

ここで当然、一つの疑問が浮かぶ。なぜそんなことをしたのか。

きっかけは意外なほど単純だった。当時の最長助走記録24.36kmの映像を見たボドアノさんは、「これは自分もやらなきゃ」と思ったのだという。そこから友人との会話などを経て、わずか5週間ほどで100km挑戦を実行に移した。

従来の世界記録は、2024年に英国のトム・ダンさんが達成した24.36km。今回の約100kmが正式認定されれば、一気に従来記録の4倍以上となる。

ただし現時点ではギネス世界記録による審査中と報じられているため、まだ「世界記録達成」ではなく「世界記録に挑戦」という段階である。

実はチャリティーのための100kmだった

なんとも奇妙な世界記録への挑戦だが、実はボドアノさんが100kmを走ったのには、もう一つ大切な目的があった。

今回の挑戦を通じて、英国の慈善団体「Ruth Strauss Foundation」への寄付を募っていたのである。同団体は、元イングランド代表クリケット選手アンドリュー・ストラウス氏が、肺がんで亡くなった妻ルースさんを偲んで設立した団体で、親を亡くす可能性に直面する家族などを支援している。

ボドアノさんの挑戦によって、約6000ポンド(現時点で約126万円)の寄付金が集まったという。

ふざけているように見えて、実はかなり真面目な理由もあったのだ。

「助走」の概念を完全に間違えている気もするが……

クリケットのボールを1球投げる。本来ならほんの数秒で終わる動作である。それをボドアノさんは100km走り、14時間かけ、最後に父親へ1球を投げ、そのまま試合に出場した。

冷静に考えれば、100kmも走ったら「勢いがつく」どころか、投げる頃には体力をほとんど使い果たしている気もする。それでも実際にやってしまうところが、世界記録への挑戦者というものなのだろう。

本人自身も後日、この「最長のクリケット助走」というアイデアについて、少し馬鹿げたものに聞こえると認めている。しかし、だからこそ世界中の人が「なぜ100kmも?」と気になってしまったのかもしれない。

世界にはいろいろな「長い話」がある。

しかし、「ちょっと助走つけてくる」と言ってから14時間帰ってこない男は、そうはいない。

世界は今日も、ちょっと面白い。

― edamame.編集部

参照元:
BBC / Yahoo Sports【1】BBC / Yahoo Sports【2】
RunThrough Podcast【3】Hindustan Times【4】The Indian Express【5】SportsTak【6】Sam Bodoano公式Instagram【7】

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