牛乳の3倍以上のエネルギー!?「ゴキブリのミルク」がイグ・ノーベル化学賞を受賞

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「ゴキブリのミルク」と聞いて、思わず飲み物を想像してしまった人もいるだろう。
しかし、これは冗談ではない。ある種類のゴキブリは、母親が体内で育てている子どもに「ミルク」を与える。そして、その栄養を調べた研究が、2026年のイグ・ノーベル化学賞を受賞したのである。

「ミルク」を作るゴキブリがいた

研究対象となったのは、太平洋地域に生息する「Diploptera punctata(ディプロプテラ・プンクタータ)」というゴキブリだ。
多くのゴキブリは卵を産むが、この種類は少し変わっている。母親の体内で子どもを育ててから産む「胎生」のゴキブリで、母親は育児嚢の中で成長する胚に栄養豊富な分泌物を与えている。

いわば、ゴキブリ版の「母乳」である。

胚がこの液体を飲むと、腸内で濃縮され、やがてタンパク質の結晶を形成する。研究者たちが注目したのは、この小さな結晶だった。

なんと牛乳の3倍以上のエネルギー

研究チームはX線結晶構造解析を使い、この結晶を原子レベルで調べた。すると、そこにはタンパク質だけではなく、糖質や脂質も含まれていることが判明した。成長中のゴキブリにとって、非常に効率のよい「完全食」のような仕組みになっていたのである。

さらに驚くのが、そのエネルギー密度だ。

2016年に学術誌『IUCrJ』に掲載された論文によれば、この結晶は同じ重量の乳牛のミルクと比べて3倍を超えるエネルギーを持つと推定された。「ゴキブリのミルクは牛乳より栄養豊富」という話が世界中で話題になったのも、この研究がきっかけだった。

研究の始まりには日本も深く関わっていた

さらに面白いことに、この研究には日本が深く関わっている。受賞者の一人、レオナルド・シャバス博士は日本の総合研究大学院大学で博士号を取得し、研究の出発点となった結晶構造解析は、茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の「フォトンファクトリー」で行われた。

シャバス博士によると、研究を始めた当初は、この謎の結晶がミルクと関係していることすら分かっていなかったという。そこから研究を進め、ゴキブリの胚の体内で自然に形成される結晶を原子レベルで明らかにしていった。

そして10年後、まさかのイグ・ノーベル賞

研究論文が発表されたのは2016年。それから10年後の2026年9月、研究チームはイグ・ノーベル化学賞を受賞した。イグ・ノーベル賞は、人々を「笑わせ、そして考えさせる」研究を称えることで知られている。
今年の化学賞の受賞理由も実にストレートで、胎生のゴキブリが作るミルクのタンパク質が、牛乳のものより3倍ものエネルギーを詰め込めることを発見したことだった。

授賞式では研究者たちがゴキブリを模した帽子をかぶり、自分たちの研究について歌まで披露したという。研究そのものは最先端のX線結晶構造解析なのに、最後はゴキブリ帽子で歌う。

なんともイグ・ノーベル賞らしい展開である。

では「ゴキブリミルク」を人間も飲めるのか?

ここまで聞くと、「未来のスーパーフードになるのでは?」と思うかもしれない。ただし、スーパーに「ゴキブリミルク」が並ぶ日は、まだ想像しないほうがよさそうだ。

そもそも研究対象は、私たちが牛乳のように搾って飲む液体ではなく、ゴキブリの胚が母親の分泌物を摂取した後、腸内に形成する栄養結晶である。また、人間が食品として安全に摂取できるかどうかを示した研究でもない。
つまり、「牛乳の3倍だから、明日からゴキブリを飼おう」という話ではまったくないのだ。

それでも、小さなゴキブリが子どもを育てるために、タンパク質、糖質、脂質を詰め込んだ高密度の栄養結晶を作り出す仕組みは興味深い。
ゴキブリの体内にできた小さな結晶を、研究者が「これは何だ?」と調べ始めたことから、原子レベルの構造解析へ進み、10年後にはイグ・ノーベル賞までたどり着いた。

「ゴキブリのミルク」。

名前だけなら笑ってしまう。しかし調べてみれば、そこには生物が進化の中で作り上げた、驚くほど精巧な子育ての仕組みが隠されていたのである。

参照元:
Improbable Research【1】
高エネルギー加速器研究機構(KEK)【2】
IUCrJ 原著論文【3】
Purdue University【4】

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ひろしげ

海外渡航経験はハワイ、イギリス、ニュージーランド。大陸に憧れと恐れを抱く典型的島国の人です。趣味は大仏巡り。牛久大仏を擁する茨城県が魅力度ランキング最下位というのは納得できない。

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