今日は髪の毛を切りに行った。

店員のお兄さんにほとんどをおまかせし、ずっとウトウトしていたらカットが終わった頃にはびっくりするほど前髪が短くなっていた。

いや、”短くなっていた”というより”なくなっていた”と言った方が正しいのかもしれない。

なぜ、店員のお兄さんは俺の前髪をこのようにしたのか真意はわからないが、これが失敗でないとしたら、彼が俺に何かしらの激しい恨みを持っているのか、ウトウトしている間に前髪切り裂き魔でも現れたのであろう。

まったく、美容室というのは恐ろしいところである。

その時はあまりのショックで呆然とはしたものの、「こういうのもアリなのかもしれない」と僅かな期待を胸に、その場は納得することにした。

その後、家に帰り、しばらく自分の前髪を鏡で見つめ、なぜだか不思議だが自然と口からこんな言葉が出ていた。

「うん、そうそう、実はこういう風にしたかったの、三戸なつめさんとか人気あるし、計画通り」

今まで黙っていたがここだけの話、来年辺りから”前髪切り過ぎた男子”ブームが来る、と俺は踏んでいる。それをいち早く取り入れただけのことだ。やはり、人気者というのは常日頃から流行に敏感でなければならない。

確かに今、この前髪で外を自信満々に歩こうものならば指をさされ笑われるに違いない。しかし、オシャレの最先端にいる者はそれが当たり前になるまで常におかしな目で見られるものである。

”オシャレと奇抜は紙一重”とはよく言ったものだ。

「・・・やれやれ、オシャレの最先端も辛いものだぜ」

俺は夜空を見ながら短くなった前髪を触り、そう静かに呟いた。いつもより星が光って見えたのは、寒さで空が澄んでいたせいか、俺の目が涙で溢れていたせいなのか、その答えは誰にもわからないであろう。

もし明日以降、とてつもなく前髪が短く、泣きじゃくっている男性を見かけることがありましたら、決して指を指して笑ったりせず、「大丈夫、わかっているから」と一声かけ、抱きしめて頂ければ幸いである。