家に帰ると、庭にたぬきがいた。
「たぬきがいた」と書くと、まるで田舎の山奥に住んでいるように思われるかもしれないが、実際には大都会に住んでいるので、安心していただきたい。
その証拠に、自宅から30分ほど離れたところにコンビニはあるし、部屋からは畑を一望できるし、近所にはヤオコーがあるほどの大都会だっぺ。
なぜそんな大都会にたぬきが出現したのか真相はわからないが、思うに「takaさんは心優しい人だ」という噂をどこからか聞きつけて、俺がどのような人物か一目見ようと山里からわざわざ姿を現したに違いない。
どうやら俺の噂はたぬき界まで進出してしまったようだ。
この勢いのまま、一日でも早く人間界の女性たちにも噂が届いてほしいものである。これは切実な願いだ。
ところで、たぬきと言えば、”狐の七化け狸の八化け”という、ことわざがあるのをご存じだろうか?
狐は七種類の変化が出来るが、狸はさらに化け方が上手で八変化できる・・・つまり上には上がいるという意味なのだが、言い換えれば、これは”たぬきは変化の達人”という事だ。
俺は、この言葉が事実か確かめるため、たぬきをエサで釣り、両手を火が出るほどこすり合わせて「美少女に化けてください、美少女に化けてください!」と必死にお願いしてみたが、一向に化ける気配がなかった。
どうやらあの言葉は嘘のようだ。
それとも、やはりたぬきたるもの、頭に葉っぱを乗せないとダメなのであろうか。
しかし周りを少し探したものの、丁度良さそうな葉っぱがなかったため、残念ながら今回は美少女に化けてもらうのは断念することにした。
その後、たぬきにサヨナラを告げ、庭にたぬきがいたこと、俺が優しいからたぬきが来た、ということを母親に伝えると「あんたがたぬきみたいな顔だから、親分だと思って挨拶にきたんじゃないの」と言われた。
まったく、たぬき心がわかってないやつだ。