朝、会社に行くと「takaくん助けて」と女子社員のS子さんに声をかけられた。
普段女性から助けを求められることは皆無のため、快く話を聞くと、「パソコンが突然動かなくなってまったく業務ができなくなってしまった」とのことであった。これは一大事だ。
しかし、俺に声をかけたのは正解だろう。
なぜならば、こうみえても俺は大学時代にパソコン関係の学部に属し、日夜プログラミングに励んでいたほどのパソコン通だ。
特に、所属していたゼミで俺が作り上げた「クイズゲーム」はそのゲームのクオリティの高さからゼミ内で反響を呼び、あのスーパーマリオの生みの親”宮本茂の再来だ”と騒がれたとか騒がれなかったとか。
そんな俺にかかれば、女子の使うパソコンを直すことなど、赤子の手をひねるどころか、勢いあまってねじ切るほど簡単なことである。
しかも女子が「パソコンが動かなくなった」と言う場合のほとんどは、マウスの電源が入っていないとかコードが抜けたとか、そういうお茶目な理由に決まっている。
「どれどれ」
さっそく余裕の面持ちで、そのパソコンをみてみると、まるで宇宙人からのメッセージかと思わせるような謎の文字と記号が羅列された茶目っ気が一切ない不思議な画面になっていた。
「なるほどなるほど・・・・(さっぱりわからん)」
困ったときのお決まりである再起動を何度しても、その画面から変わることはなかった。
次第に俺から余裕もなくなり、「大丈夫?直せそう?」と頻繁に聞いてくるS子さんに対し、
「うん、大丈夫だから・・・」
と、食卓に上がった焼き魚のような白く濁った目でそう返事をするのが精一杯であった。
その後も諦めずにどうにか直そうと必死にキーボードをぱちぱち叩いていると今度は何を思ったのかそれを見ていたS子さんが「なんかtakaくん、外国映画に出てくるデブのハッカーみたい」と言ってきた。
なんで”デブの”ってつけたんだろう?ハッカーだけでよくない?もしかしたら俺はデブなのかな?裏で女子社員たちは俺のことをデブって言っているのかな?
そう考えると手が震えだし、このパソコン同様に俺も動かなくなってしまいそうであった。
結局、直し方がわからず上司に相談すると、業者が見てくれることになった。
女子からの助けにも応えてやれない自分に腹が立ったのはもちろんだが、それ以上に、俺はS子さんから、「大して役に立たないデブ」と思われているんじゃないかと危惧している。