「何をもって死を定義するか」
この問題は、医療従事者たちを悩ませる。
従来、死亡判定の基準として用いられてきたのは「死の3兆候」という考え方。すなわち心臓機能の停止・呼吸の停止・脳機能の停止の3つを持って死亡と判定する方法である。
しかしその基準を覆さざるを得ないような、不思議な論文が発表されたことをご存知だろうか。
ニューヨーク州立大学のサム・パーニア博士は、身体機能の停止と人の意識との関係を探るため、「心停止したが、蘇生によって生き返ることができた患者たち」にインタビューを行った。
すると、およそ39%の人が、「心停止中の記憶がある」と回答したのである。
通常、心臓が停止すれば血液が循環しなくなり、すべての臓器の活動が停止する。脳に関しても、心停止から30秒以内に「シャットダウン」されると言われている。
それにも関わらず、心停止から3分後くらいまでの記憶を持つ人もいたのだという。その内容も、医師や看護師の働く様子や会話、どんなことが行われていたかなど、意識がなければ知り得ない情報だったそうだ。
生理学的には心臓も脳もシャットダウンされている状況なのに、人は精神活動を行っているということだ。
パーニア博士は「心肺蘇生術の際に血液がある程度循環することで脳機能のスイッチがオンになるのではないか」と現実的な考察をしているが、英メディア・デイリーメールは、この不思議な現象について「人は自分が死んだ事を『知る』のだ」とセンセーショナルに報道している。
ちなみに、脳や心臓などの器官が活動を停止していても、もっとミクロな部分、つまり遺伝子のいくつかは機能し続けているという別の研究がある。人の死体の細胞に含まれるゲノム中の1000以上の遺伝子が、死後何日間かは活動しているのだという。
これらの遺伝子が、人の意識状態になんらかの形で関係している可能性もある。
利己的遺伝子論を提唱するリチャード・ドーキンスは、「生物は遺伝子によって利用される乗り物に過ぎない」と語った。もしそうならば、生物の死亡判定基準に遺伝子が用いられる日がやってくるのかもしれない。