この上なく理不尽で、耐えがたい苦しみ
ここ数ヶ月、大きな台風や地震が続く日本。家屋の倒壊、停電、火災など、凄惨な災害地域の様子がニュースで連日報道され、多くの人が心を痛めている。
しかし、運よく直接的な被害を免れた人々にとって、災害が完全にメディアの向こう側の存在なのかというとそうでもなく、その余波は様々な形でその身に降りかかる事になる。そして、その中でも我々を悩ませる最たるもののひとつが「交通機関の乱れ」ではないだろうか。
これに関連して、今年の夏、毎日新聞のデジタル版に掲載され、物議を醸したとある記事を紹介したい。
その記事のタイトルは「電車遅延のたびに必ず遅刻する社員をどう処遇するか」
以下、冒頭部の引用である。
A男さん(48)は、従業員数約30人のソフトウエア開発会社の経営者です。会社は複数の鉄道路線が乗り入れる駅が最寄りの便利な場所にありますが、社員のB輔さん(28)は交通機関が乱れると必ず遅刻します。一方、社員のC太さん(27)は、B輔さんと同じ路線を利用していますが、始業前には自席に着き仕事の準備を整えているのがほとんどです。A男さんは、B輔さんへの対応に悩んでいます。
ツイッターユーザーのSimon_Sinさん(@Simon_Sin)は、この記事に対する批判を、かなり率直な表現によって以下のようにツイートした。
『電車遅延のたびに必ず遅刻する社員をどう処遇するか』
「どう処遇するか」じゃねえよ遅延したなら遅延証明書出せば問題ねえだろ何の問題もねえのになんであたかも問題社員みてえな書き方してんだよおいライターは社労士なのに何言ってんだコラてめえブラック企業の手先かhttps://t.co/NeD8D14K28— Simon_Sin (@Simon_Sin) 2018年8月1日
この投稿には1万を超えるリツイートと100を超えるコメントがつき、「否定派」と「肯定派」が舌戦を繰り広げることになった。以下に、「電車遅延のたびに必ず遅刻する社員」をめぐる議論の一部を引用させてもらった。
電車の遅延を見越して遅刻を回避する努力をしているC太がいる以上、電車遅延という外部要因を遅刻の言い訳にするB輔を高い評価をしようと思わないのが人の心です。C太も人間。全然、非人道的だとは思わない。
労働基準法的に言えば「本来勤務時間は1分単位で給料算出する」のが原則でこの場合本来C太には「早勤相当の給与・残業代を支払うべき」というだけなので「早勤している事」を人事評価などの対象とする事は「不当人事評価」で普通に違法になる可能性があります。
同じ事で悩む職場。首都圏の電車は毎日のように遅延します。年に100日を越える遅延遅刻…朝の打ち合わせもままならない。他の社員も辟易。もう何年もその人の遅刻に費やした会議の時間もストレスもあります。ブラックと言い切れる?
余裕を持って出勤しろと言いたいんだろうけど、その分ってサービス残業(不法労働)と実質的に同じなんだよね。
遅延など考えて早く来いって奴がいるが、その分の工数は誰がくれるんすかねぇ。無駄に無料で働く気なんてさらさらないわ。
電車遅延で遅刻常習のBさんはルール上何も悪くない。それに対してCさんはその状態を見越して遅刻をしないというのは評価に値するのでBさんへの評価は据え置きでCさんの査定を上げるだけでよいのでは?
遅刻されんのが会社的に損失ならばタクシー代を支給してやれば解決!
そもそも遅延して遅刻するのは当たり前。
多分、どちらのサイドの言い分にも理はちゃんとあるのだと思う。だからこそ、議論は平行線のままである。
「電車遅延によって遅刻する社員をどう処遇するか問題」は、経営者にとってはありがちな課題のようで、人材開発のナレッジコミュニティサイト「日本の人事部」にも同様の質問がなされていた。
従業員30名以下の都内にある中小企業です。山手線や地下鉄などは毎日5分~10分の遅延は日常的に遅れるものですが、その遅延の度に5分~10分の遅延証明書を提出し、遅刻をする社員がおり頻度は月に2~5回程度です。また、遅刻をしない日はほぼ毎日9:00ちょうどまたは8:59にタイムカードを押しています。本人としては不可抗力での遅刻ということでしょうが、会社としてその社員に遅延を予測した出社を促したり、注意あるいは賞与支給の際の評価を下げる理由として用いて良いものなのでしょうか。ご意見をいただければ幸いです。
この質問に対し、社労士は以下のように解答している。
労働契約では、9:00~労務提供することが、労働者の義務ですから、労働者が何時に家をでるかは、労働者の自己責任での管理となり、会社としては、9:00~労務を提供してもらう権利があるわけです。ぎりぎりに到着で、よく10分遅れるようでは、周りにも示しがつきません。ただし、労働契約について、理解していなかったり、社会人としての自覚がないケースも多々ありますから、会社としては、注意・指導すべきであり、それでも、遅刻を繰り返すようであれば、懲戒処分も検討する必要があります。
交通機関の遅延による遅刻は、本人にとっても大きな損失となる。時給制で働いている人なら遅刻する事でその分給料は減ってしまうし、別の路線を使うことで余計な電車賃がかかることもある。それでも、会社が責めるのは交通機関ではなく、遅刻したその人である。そして、一種のトラウマめいたものを刻み込まれたその人は、「社会的義務」という大義名分のもと、いかなる理由があろうとも絶対に遅刻できないというプレッシャーに押しつぶされていくのである。
なぜ電車は時間通りに来ないのだろう。
なぜ遅刻すると怒られるのだろう。
なぜ世界はこんなにも生きづらいのだろう。
Simon_Sinさんは以下のように語る。
怒るべきときに怒らないからこの世界はよくならないのだ。怒ろう
— Simon_Sin (@Simon_Sin) 2018年8月2日
許諾元:Simon_Sinさん
参照元:毎日新聞経済プレミア、日本の人事部、Twitter[1]、[2]、[3]、[4]、[5]、[6]、[7]、[8]