レイプ犯を殺害した女性に実刑判決
今月15日、メキシコの裁判所で下された”ある判決”が世界中で大きな物議を醸した。
それは、シングルマザーの若い女性が自分をレイプしてきた男性を殺害したという事件に関するものだったが、これが”過剰な正当防衛”だったとして女性に懲役6年の実刑判決が下されたのだ。
Mexican court sentences woman to six-year in prison for killing the man who raped her https://t.co/bGI0drDdfm pic.twitter.com/365paXjFXc
— Daily Mail US (@DailyMail) May 17, 2023
事件が起きたのは、2021年5月のこと。
この日、フライドポテトを販売しながら友人とビールを飲んでいたというロクサナ・ルイスさん(23)は、以前近所で見かけたことのある男性と遭遇し一緒に時間を過ごしていた。その後、ルイスさんを自宅まで送り届けることを申し出たという男性だが、夜遅くなったためにルイスさん宅に泊めてほしいと頼み、結局、男性にはソファで寝てもらうことにしたという。
しかし、夜中にこの男性はルイスさんのベッドに潜り込み、彼女を殴り衣服を剥ぎ取ったのだ。驚いたルイスさんが男性の鼻を殴ると、激怒し「殺す」と脅してきたという。そして、恐怖に震えるルイスさんは、無我夢中で男性のシャツを掴み、そのまま首を絞めて殺害したのだ。自分の身に起きたことにパニックに陥ったルイスさんは、その死体を大きな袋に入れて通りに引きずり出したというが、そこを警察に発見され逮捕されてしまった。
過剰な力を使った正当防衛であると判断
その後、ルイスさんのこの行為は正当防衛の範囲を超えていると殺人罪で起訴され、そして、今月15日には懲役6年の実刑判決が言い渡された。
モニカ・オソリオ判事は、ルイスさんが自分をレイプした男性から身を守るために過剰な力を使ったとして有罪の判決を下したという。ルイスさんは、レイプしてきた男性を殺さなければ自分が殺される可能性が高かったと主張したものの、オソリオ判事は加害者の暴行を回避するには頭を殴って意識を失わせることで十分であったと判断したのだ。
この判決を受け、ルイスさんはAP通信にこう語った。
レイプされたと警察に話したにもかかわらず、法医学的検査は行われず、ある警官は、私が当初は加害者と寝たかったが、気が変わったのだろうとさえ言ったのです。
市民や団体の抗議デモで訴えが取り下げに
起訴されたルイスさんは9ヶ月間刑務所に服役し、その後、裁判を待つために釈放されたという。そして、レイプされた被害者であるはずのルイスさんは、懲役6年の実刑判決にくわえ、さらには加害者家族に対する賠償金として16,000ドル(約220万円)の支払いまで命じられた。
これに対し、ルイスさんの弁護人アンヘル・カレラ氏は「この判決が定着すれば悪い前例となってしまいます。この判決は、女性たちに法律では自分を守ることができるが、それはある程度までだというメッセージを送ることになってしまいます。たとえレイプされてしまっても、あなたには何もする権利がないということです。」と延べ、この判決は差別的なものだと控訴するとともに、これに同意する市民らの間では「自分の身を守ることは犯罪ではない」というスローガンとともに、大きな抗議活動が展開されることとなった。
そして、今月20日、ついに事態が動くこととなる。メキシコの検察当局は、レイプ犯を殺害したとして6年の実刑判決を受けたルイスさんに対する訴えを取り下げると発表したのだ。
同州検察庁は、先住民女性でシングルマザーであるルイスさんが弱者グループに属していることを考慮し、事件を検討した結果、罪を免れると判断、そして訴えを取り下げる決断をしたという。また、今回の事件について、彼女が自己防衛のために行動したと考えているとも述べた。
この訴えが取り下げられたことについて、カレラ氏はこう語る。
今回の判決について、彼らがルイスさんの無実を認めたということを意味します。それは単に、彼女が自分自身を守ったという認識でもあります。