世界一のスタートアップ、その後どうなった? 1億ドル超を集めて経営破綻した会社も!

テクノロジー

世界一のスタートアップを決める大会がある。

なんだかすごそうだ。実際、すごい。

世界各地の予選を勝ち抜いた起業家たちが、投資家の前で自慢の技術やアイデアを披露する。その名も「スタートアップワールドカップ」。優勝すれば、世界的な注目に加え、100万ドルの投資賞金を獲得するチャンスもある。

でも、ちょっと気になった。

世界一になった会社って、その後どうなったんだろう?

華々しく優勝したものの、数年後には姿を消していたりして……。そんなことを考えながら、歴代優勝企業のその後を調べてみた。

すると、意外なことがわかった。みんな、思っていたより頑張っているのである。

ただし、一社だけ、とんでもない展開を迎えていた。

2017年:日本の保育スタートアップ、9年後も元気だった!

初代世界チャンピオンに輝いたのは、日本のユニファという会社。手がけていたのは、保育園の仕事をテクノロジーで助ける仕組みだ。
例えば、子どものお昼寝を見守るセンサー。保育士さんが何度も手作業で確認していた仕事を、機械でサポートする。

地味?

いやいや、こういうのが案外すごい。

さて、それから9年。
ユニファは2026年現在も、保育施設向けICTサービス「ルクミー」を展開している。

しかも、こども家庭庁が進める2026年度の「保育ICTラボ事業」に、2年連続で採択されたという。
おお、ちゃんと頑張ってるじゃないか!
大会主催者の紹介によれば、優勝後には売上が6倍、顧客数が3倍になった時期もあったそうだ。もちろん、それは過去の成長実績であって、2026年の業績を示す数字ではない。

それでも、世界一になって終わりではなかったことは確かだ。派手なロボットが空を飛ぶわけではない。でも、毎日の保育現場を少しずつ変えている。

こういう未来も、なかなかいい。

2018年:採血なしで白血球を調べる? 8年たっても挑戦中!

翌2018年の優勝企業は、アメリカのLeuko(ルーコ)。
こちらは、なかなか驚きの技術を開発している。

なんと、採血せずに白血球の減少を調べようというのだ。

開発中の「PointCheck」は、指先の細い血管を光で観察し、AIを使って白血球の減少を検知することを目指している。特に期待されているのが、抗がん剤治療を受けている患者さんの健康管理。
白血球が減ると感染症のリスクが高まるため、頻繁に状態を確認できれば心強い。

さて、それから8年。

まだ開発していた!

いや、これは悪い意味ではない。
2026年の公式サイトによると、Leukoは複数のがん治療施設と協力し、臨床試験を続けている。研究論文も発表しているという。ただし、PointCheckは現在も研究段階の医療機器で、一般販売はされていない。
医療機器は、アイデアが優れているだけでは世に出せない。安全性や有効性を証明する必要があるのだ。

世界一のアイデアが、患者さんの手元に届くまで。

どうやら、まだ物語の途中らしい。

2019年:ベトナムの物流AI、ちゃんと世界で働いていた!

2019年の世界チャンピオンは、ベトナムのAbivin(アビビン)。

開発したのは、AIなどを使ってトラックの配送ルートを効率化するシステムだ。荷物をどのトラックに積んで、どの順番で届ければいいのか。簡単そうに見えるけれど、配送先が何百か所にもなれば話は別。人間が最適なルートを考えるのは、なかなか大変なのである。
そこでAIの出番というわけだ。

さて、それから7年。

公式サイトを見てみると、物流・サプライチェーンの最適化プロジェクトは70件以上。事業展開国は6か国以上だという。計画や配車にかかる時間も、同社の公表値では約50%削減できたそうだ。

おお、立派に仕事してるじゃないか!

もちろん、これだけで経営が大成功しているとは言えない。売上や利益がどれほど伸びたのかは、別に確認する必要がある。
それでも、世界一になったアイデアが実際の物流現場で使われてきたことは、なかなか頼もしい。

こういう堅実な会社、てつろうは好きである。

2023年:日本の医療AI、全国2,000以上の医療機関へ!

2023年の優勝企業も、日本から登場した。(日本は意外と検討しているのである)

医療AIを開発するアイリスだ。
この会社が作った「nodoca(ノドカ)」は、専用カメラでのどを撮影し、問診情報などと合わせてAIがインフルエンザの可能性を判定する医療機器。

鼻の奥に綿棒を突っ込まれる検査が苦手な人には、ちょっとうれしい話である。しかも、これは研究室の試作品ではない。
2022年12月に販売が始まり、2025年11月時点で全国2,000以上の医療機関に導入されたという。
保険適用もされている。

もちろん、最終的な診断は医師が行う。AIが勝手に病名を決めるわけではない。それでも、世界大会で注目された技術が、すでに日本の医療現場で使われている。

これはかなり頼もしい。

世界一になった会社のなかには、ちゃんと私たちの生活に入り込んでいる企業もあるのだ。

ところが! 2022年優勝企業は巨額の負債を抱えていた

さて、ここまで歴代優勝企業を見てきた。

意外とみんな頑張っている。

スタートアップって、案外しぶといものだなあ。……などと思っていたら。

2022年の世界チャンピオン、カナダのSRTXを調べて驚いた。

この会社が開発したのは、ものすごく丈夫なストッキング「Sheertex」だ。
ストッキングって、ちょっと引っかけただけで伝線することがある。それを何とかしようと、新しい繊維技術に挑んだ会社だった。
大会主催者によれば、投資家から集めた資金は累計1億2,000万ドル以上。

さらに約30万平方フィート、東京ドームの6割ほどに相当する広さの製造施設を整備し、繊維の生産から製品づくりまで自社で手がける構想を進めた。
これはもう、ストッキング界の革命児である。

ところが、である。

2025年10月末時点の裁判手続き資料によると、SRTXグループの資産は約1億2,937万ドル。それに対して、負債は約1億6,639万ドル。
差し引き約3,702万ドル、負債が資産を上回っていた。

なんということだ。

ただし、この負債額には、会社側が会計上は資本に分類すべきだと考えていた転換社債も含まれている。そのため、この数字だけで現金の不足額を判断できるわけではない。それでも、会社が深刻な資金繰りの問題を抱えていたことは間違いない。

そして2026年2月17日、SRTXグループはカナダの破産・倒産法に基づく手続きを開始した。
世界一になってから、わずか4年足らず。

あれほど華々しかった会社が、裁判所の関与する経営再建へと追い込まれたのである。

そして事業売却。工場も従業員も、そのままでは残せなかった

話はさらに続く。

2026年2月、SRTXの事業は、カナダのA.Y.K. Internationalに引き継がれることになった。
ところが、買収側は約30万平方フィートの工場の賃借契約を引き継がず、一部の設備も取得対象から外した。

現地報道によれば、当時の従業員約30人のうち、買収側が雇用を提示する予定だったのは7人だったという。

これは厳しい。

しかも、買収の際には引き継がない資産や負債を別会社に移す仕組みが使われた。そして2月27日、その別会社は正式に破産した。

つまり、SRTXの経営再建は、単なる社名変更や資本提携とはまったく違う。
大きな工場を構え、世界の繊維産業を変えようとしていた会社が、事業を切り分けなければ生き残れないところまで追い込まれたのだ。

では、すべてが終わってしまったのか。

実は、そうでもない。

買収先はSheertexブランドや独自の繊維技術を引き継ぎ、事業を継続する方針を示している。
会社の経営は大きくつまずいた。

でも、発明そのものは生き残ったのである。

なんとも複雑な結末だ。

世界一の発明と、世界一の商売は別物だった

ここまで調べてみて、面白いことに気づいた。

歴代優勝企業は、思っていた以上に健闘している。

ユニファは保育現場で事業を続け、Abivinは物流の現場で実績を積み重ねている。アイリスの医療AIは、すでに全国の病院やクリニックで使われている。
Leukoは8年かけても、まだ医療機器の実用化に挑戦している。

そしてSRTX。

世界一になり、巨額の資金を集め、大規模な工場まで構えたものの、最後は経営危機と事業売却に追い込まれた。

もちろん、今回取り上げた企業がすべてではないし、事業が続いているからといって利益が出ているとも限らない。それでも、世界一になったアイデアが、その後どう育っていくのかを眺めるのは実に面白い。

優れた発明をすることと、それを長く続く商売にすることは、まったく違う才能なのだ。

ただ、SRTXの一件を見ていると、もう一つ思うことがある。

会社が失敗しても、その技術まで失敗したとは限らない。

発明は、別の会社に引き継がれ、思いがけない形で世の中に広がっていくこともある。
そう考えると、スタートアップの成功や失敗は、なかなか一言では決められない。

さて、2024年にはプラズマで地下を掘るEarthGrid、2025年には次世代電池を開発するCoreshellが世界一になっている。どちらも、いかにも未来を変えてくれそうな会社だ。

でも、5年後はどうなっているだろう。

巨大企業に成長しているかもしれない。

別の会社に買収されているかもしれない。

あるいは、まったく予想外の展開が待っているかもしれない。

いやあ、スタートアップって面白い。

てつろうは、これからも追いかけてみようと思う。


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てつろう

未来の技術にワクワクする、ちょっと脱力系のテック好き。

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