かつて「東のパリ」と呼ばれたルーマニアの首都ブカレスト。ここには、その雰囲気からは想像もつかないほどのヤバすぎる第二の都市が下水道に広がっている。
ブカレストは重大な社会問題を抱えている。同国では過去に孤児が大量発生した。そしてその孤児が成長し今ではホームレスが町にあふれかえっている。
そして現在、彼らの一部は地下の下水道で生活を営んでいるのだ。その中の実態が驚くべきものだったので紹介したいと思う。
地下の王国、マンホールタウン
マンホールタウンの入り口は、ブカレスト市内にある車の通りが多く開けた駅の近くにある。
入り口は意図的に狭く作られており、1人ずつしか入れない。
地下ではあるが電気は通っており、ある程度文明的に暮らしているようだ。
ここでは、数百人が住んでいるという。
それほど大きな規模であり、部屋数がここにはあるようだ。
住人殆どがHIV感染者、４人に１人は結核患者
まずこのマンホールタウンで特筆すべきは、劣悪な環境についてだ。
ここの住人のほとんどがHIV感染者またはエイズ患者である。
冒頭で述べたが、ここの住人は孤児だった。昔、独裁的権力者として君臨したニコラエ・チャウシェスクが行った人口増加政策の影響で、捨てられることとなった彼らは孤児院に引き取られた。
しかし、孤児院での暮らしは決して良いものだとはいえなかった。食料も乏しかった孤児院では、彼らの栄養剤代わりに血液製剤を使用していた。そして、それで使用する注射器が使いまわされるなどし、彼らの多くはHIVに感染するという結果になっている。
そして感染した彼らは大人になり、子どもを作るのだが、病気に対し十分な対策がなされないまま出産に至る。マンホールタウンでは、そうして生まれる子ばかりだ。そのため母子感染でHIVを受け継いだ子どもたちも多く暮らしているようだ。
病院に行くお金のない彼らは十分な治療は受けられていない。そのためHIVが引き金となり結核を発症する者、死んでしまう者が後を絶たないという。
体を温めるためにシンナーを吸う
このマンホールタウンには、薬物を乱用する者が大勢いる。
日本に住む我々からすれば、薬物乱用する理由は「異常な快楽を求めるため」と安易に考えがちだろう。
しかしマンホールタウンの彼らからすれば、塗料のシンナーですら生きる糧になるのだ。
冬の寒さが厳しいブカレストにあるマンホールタウンの彼らは、暖を取るために暖房用の配管の傍でシンナーを吸い体温を上げるのだという。
空腹を満たすために、他のドラッグも使用し始める者も少なくないという。
指導者のブルース・リーがとにかくスゴイ！
この地下帝国には、全てをまとめるカリスマ的指導者が存在する。
それが彼、ブルース・リーだ。
彼はいつも毒々しい服装に身を包み、腕や腹にはタトゥーと、自傷行為による切り傷が刻まれている。
マンホールタウンの支配者であり、薬の売人、そして住人の父親代わりの存在だ。
そして彼もまた住人と同じく孤児だったのである。３歳の時に両親から捨てられ孤児院で育ったのだ。その時期を共にした仲間は、もうほとんど死んだという。
そんなこともあり、彼は同じ境遇の人間に対して親のような優しさを持って接している。
彼は、取材に対しこう語っている。
「こいつら（マンホールタウンの住人）は麻薬中毒者やマフィアの奴隷のようなものだ。良いように使われ、暴力を受け、服も奪われてきた。だから俺がマフィアと喧嘩しこいつらの地位を上げたんだ。」
「ここの人間はほとんど孤児院の出身だ。俺はこいつらを組織しようとしたんだ。俺は、俺たちは社会が思っているような屑じゃないことを証明したいんだ。社会が俺らを見捨てるなら、俺がこいつらに食事と暖かさと保護者としてのアドバイスや理解を与えてやる。俺たちは家族だ。」
リーは違法薬物を売買し、お金を稼ぎ住人のために使っている。食事を提供するための費用にあてるだけでなく、ギャングから住人を守るためにみかじめ料を支払っているというのだ。
違法薬物の売買や使用、こういった行為は褒められることではない。しかし、家族を守るために戦っていることを考えれば、筆者は彼が完全なる悪人には見えない。
マンホールタウンの住人からすれば、愛を与えてくれるリーは本当の父親といっても過言ではない存在のようだ。
現在リーは逮捕され、投獄されている。そのためマンホールタウンのことも含め今の詳細は不明だ。
リーやマンホールタウンの住人は、国の政策が生み出した悲劇的な存在である。いかに生活を良くしようとも、どうにもできない状況なのである。
そんな社会の被害者ともいえる彼らが安全に、安心して暮らせる時代が訪れることを祈るばかりだ。
