ある日、履いている靴がボロボロなことに気が付いた。
黒っぽい色の靴なので、汚れが目立つわけではないのだが、靴底の部分がガポガポして取れそうになってきていた。
このままでは、靴底が抜けるのは時間の問題であろう。
そういえば、この靴を買ったのは何年前だろう。
「3年・・いや、4年前だろうか・・・」
思えば、今まで靴というものに興味を持ったことがなかった。
学生時代、友人たちがナイキやプーマのスニーカーを買っては、クラスメイト達に自慢していたが、俺はというと、「靴なんて履ければ良い」という観念から、2000円くらいで売られている謎のメーカーのスニーカーを履いていた。
おそらく、草履が用意されてようものならば、文句の一つ言わずに草履を履いていたであろう。そのくらい靴というものに関して興味がなかった。
そんなことを思い出していると、ふと、こんな言葉が浮かんだ。
”オシャレは足元から”
今までこの言葉を目にする度に、「いやいやww足元なんて誰も見てないからww」と思っていたのだが、これは大きな間違いだったのかもしれない。
オシャレな洋服をいくら着ようと、スキンケアをいくら頑張ろうと、女性達にいくら優しくしようと、モテなかったのは、もしかしたら足元がオシャレでなかったからではないか・・・。
そうだ、きっと、そうに違いない!俺に足りなかったのは、靴だ!
「ちゃんとした靴を履けば俺はモテるぞ!」
俺はボロボロの靴を天高くかかげ、そう叫んだ。
そのあまりにも勇ましい姿は、モテる男”ニューtaka”の誕生を予感させた。
そんなわけで一刻も早く、モテるために靴を買いに行った。
事前に、友人の少ない俺は、最近すごく仲良くさせてもらっている”インターネットさん”の力を得て、「ニューバランスがキテいる」という情報を入手していた。
ニューバランス・・・ニュー・・これはまさに、新たな俺の誕生に相応しいブランドであろう。
ニューバランスと一言でいっても、デザインの違いや、用途による種類が様々あり、悩みに悩んだのだが、「2足はあったほうがいいですよ」という店員のアドバイスもあって、結果的に2足購入することにした。
靴を選んでいる際は、値段を気にしていなかったのだが、2足で2万円近い金額になった。
「く、靴で、にに、2万・・・」
だが、これでモテるならば、安いものだ。モテるためならば、意味もなくこの新しい靴をむしゃむしゃと食べたって構わない。
俺は覚悟を決め、購入した。
実は、この靴を買った話は2週間ほど前のことであるのだが、モテたのか?と問われれば、モテてはいないし、なんならば、2週間経った今でも、ボロボロの以前の靴を履いて生活している。
なぜ、新しく買った靴を履かないのか不思議に思うだろうが、その理由として、1足1万円もする靴を今まで履いたことがないため、「汚したくない」「まだそのタイミングじゃない」となかなか使うことができないのである。
どうやら俺の根っからの勿体ない魂が邪魔をしているようだ。
靴を箱から出しては「可愛らしいデザイン」「素晴らしい靴だ」と思っては、また箱に戻すということを繰り返す日々。
「この靴を履けばモテるのはわかる!・・だけど、だけど、汚したくない!」
どうやら、俺がモテるのはまだまだ先のようだ。