【20世紀最大の環境破壊】世界で4番目に大きい湖が消滅の危機… アラル海の運命は?

自然

船の墓場

まずはこちらの画像をご覧頂こう。

何隻もの古びた船が、砂漠の上に取り残されている。まるで、船の墓場だ。

一見、現代アートのように見えるこの写真の数々。しかし実は、これらは環境破壊に警鐘を鳴らす非常に深刻な状況を表している写真なのだ。

ではどのように、これらの写真が環境破壊と関係しているのだろうか。

環境破壊の産物

写真が撮られたのは、中央アジア西部にあるカザフスタンとウズベキスタンの国境周辺。ご覧の通り、辺りには白い砂、そしてぽつんぽつんと置かれた何隻かの古びた船以外何もない。

しかし、この白い砂と古びた船こそが、環境破壊が起こったなによりの証拠なのである。

どういうことかというと、今では何もない荒野だが、実はこの辺り、50年ほど前まではアラル海と呼ばれる湖があったのだ!つまり、白い砂は湖が干上がり残った塩。そして、古びた船はかつて湖を走っていたものなのだ。

Thuy Nguyenさん(@funguifugy)が投稿した写真

ここには、かつて港があったようだ。しかし現在は、塩しか残されていない。

20世紀最大の環境破壊

それでは、この半世紀の間に、アラル海にいったい何が起こってしまったのだろうか。

まずはこちらの映像を見てほしい。

Shrinking Aral Sea, 2000-2016

Shrinking Aral Sea, 2000-2016

In the 1960s, the Soviet Union undertook a major water diversion project on the arid plains of Kazakhstan, Uzbekistan, and Turkmenistan. The region’s two major rivers, fed by snowmelt and precipitation in faraway mountains, were used to transform the desert into farms for cotton and other crops. Before the project, the Syr Darya and the Amu Darya rivers flowed down from the mountains, cut northwest through the Kyzylkum Desert, and finally pooled together in the lowest part of the basin. The lake they made, the Aral Sea, was once the fourth largest in the world.

Although irrigation made the desert bloom, it devastated the Aral Sea. This series of images from the Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer (MODIS) on NASA’s Terra satellite documents the changes. At the start of the series in 2000, the lake was already a fraction of its 1960 extent (yellow line). The Northern Aral Sea (sometimes called the Small Aral Sea) had separated from the Southern (Large) Aral Sea. The Southern Aral Sea had split into eastern and western lobes that remained tenuously connected at both ends.

By 2001, the southern connection had been severed, and the shallower eastern part retreated rapidly over the next several years. Especially large retreats in the eastern lobe of the Southern Sea appear to have occurred between 2005 and 2009, when drought limited and then cut off the flow of the Amu Darya. Water levels then fluctuated annually between 2009 and 2016 in alternately dry and wet years. In 2014, the Southern Sea’s eastern lobe completely disappeared.

As the Aral Sea has dried up, fisheries and the communities that depended on them collapsed. The increasingly salty water became polluted with fertilizer and pesticides. The blowing dust from the exposed lakebed, contaminated with agricultural chemicals, became a public health hazard. The salty dust blew off the lakebed and settled onto fields, degrading the soil. Croplands had to be flushed with larger and larger volumes of river water. The loss of the moderating influence of such a large body of water made winters colder and summers hotter and drier.

In a last-ditch effort to save some of the lake, Kazakhstan built a dam between the northern and southern parts of the Aral Sea. Completed in 2005, the dam was basically a death sentence for the southern Aral Sea, which was judged to be beyond saving. All of the water flowing into the desert basin from the Syr Darya now stays in the Northern Aral Sea. Between 2005 and 2006, the water levels in that part of the lake rebounded significantly and very small increases are visible throughout the rest of the time period. The differences in water color are due to changes in sediment.

http://go.nasa.gov/1pEcEOp

NASA Earthさんの投稿 2016年9月1日

2000年から2016年の、アラル海の面積推移を確認できる映像だ。そして、うっすらと見える黄色い線が1960年代の干上がり始める前のアラル海の湖岸だ。かなり大きいのがわかる。それもそのはず、当時、アラル海は68000平方キロメートルと世界で4番目に大きい湖だったのだ。

ご覧の通り、2000年の時点で、かなり縮んでいるのがわかる。この映像では、北アラル海(小アラル海)、南アラル海(大アラル海)、そして南アラル海がさらに東西2つ、合計3つに湖が分かれているのがわかる。しかし、1960年代には、このように分かれておらず、大きな一つの湖だったのだ。

さらに、2005年から2009年にかけ、南アラル海の東側が急激に干上がっていくのがわかる。その翌年から少し回復を見せるが、2014年には一度、完全に干上がってしまった。2016年現在は、かろうじて水が残っている程度だ。

そして、現在では、1960年代に世界で4位だった大きさも約5分の1ほどまで縮み、17位まで転落してしまった。

この大規模な湖の縮小問題は、20世紀最大の環境破壊として世界的に知られている。

旧ソ連による大規模自然改造計画

この20世紀最大の環境破壊が起こってしまった背景にはソビエト連邦による大規模な農業政策がある。その当時、アラル海とその周辺の地域はソビエト連邦に支配されていた。そして1940年代、その周辺の砂漠地帯で綿花栽培を行うため、「自然改造計画」と称し、大規模な灌がいが始まった。

その灌がい用水路建設のために利用されたのが、アラル海に注いでいたアムダリヤ川とシルダリヤ川であった。その結果、綿花畑はかつてない繁栄をみせ、ソ連は綿花の大量生産に成功した。

しかし、あまりにもずさんな工事が行われたため、その二つの川からアラル海に流れ込む水の量は激減する。当然、流れ込んでくる水の量と蒸発する水の量のバランスが崩れたアラル海は1960年代から急激に干上がり始める。そして現在では、元々の5分の1の大きさにまでなってしまったのだ。

ちなみに、アラル海が干上がってしまうのは想定内であったようだ。アラル海は塩湖で、農業にとってはまったくの無価値。そこで、川の淡水が湖に注がれ塩水になってしまう前に、汲み取って使ってしまおうという考えにいたった。そのため湖の縮小は了承されてしまっていた。

このように、意図的な要素もあり、20世紀最大の環境破壊が起こされてしまったのだ。

二次被害も大きい

アラル海が干上がってしまった結果、多くの二次被害をもたらしている。

1つ目は、アラル海に住んでいた生物の絶滅。アラル海はもともと塩湖だと知られていた。それでも、従来の塩分濃度は海水の3分の1。当時はチョウザメやサケなどが生息し、アラル海周辺は漁業が栄えていた。しかし、面積が縮小した2000年では、なんと海水の2倍の塩分濃度にまで上昇した。当然、そんな環境で生きのびた生物はおらず、アラル海の生物は死滅してしまい、アラル海での漁業で生計を立てていた人たちも失業に追い込まれてしまった。


2つ目は、露出した湖底の埃や塩による健康被害。水が干上がり、露出した湖底にたまっていた埃や塩が、農薬によって汚染された。そして、それが風によって居住区域まで飛ばされ、深刻な健康被害を生んでいるのだ。さらには、農耕地域にまでそういった埃は飛ばされ、それを洗い流すために大量の川の水を消費している。さらにアラル海に流れる水を減らしているのだ。

そして最後は、周辺地域の気候の変化。水には気候を安定させるのに、非常に重要な役割がある。その水が大量に失われてしまったアラル海周辺の地域。気候は大きく変わり、冬にはさらに寒く、夏はさらに乾燥し、暑くなってしまったのだ。

ご覧の通り、アラル海が縮小したことによる、人や生態系への被害は甚大なようだ。

それでは、このように大きな二次被害があるのにもかかわらず、私たちはアラル海が消失するのを黙って見ているだけで良いのだろうか。いや、良いわけがない。

アラル海再生へ取り組むも・・・

2001年カザフスタン政府はようやく、世界銀行からの融資を受け、アラル海再生へ乗り出した。その計画は、南アラル海(大アラル海)と北アラル海(小アラル海)の間にダムを建設し、シルダリヤ川からの水を北アラル海に集中させるというものだった。結果、その計画は成功し、北アラル海の水位は上昇した。さらには塩分濃度も下がり、一部の地域では漁業も再開されているという。

しかし一方で、この計画、南アラル海にとっては死の宣告であった。お気づきの方もおられるだろう。シルダリヤ川からの水が北アラル海にすべて流されるということは、南アラル海への水の流入が極端に減少するということなのだ。上のNASAによる映像でもわかるように、2005年から、東側の南アラル海が急激に消失しはじめている。南アラル海は見捨てられてしまったのだ。

@abc7newsbayareaが投稿した写真

もう十分・・・

なにもしなければ、2020年には南アラル海は消失してしまうと言われている。このまま世界は何もしないで放っておくのだろうか。

ヒトが発展だけを追い求めた結果招いた20世紀最大の環境破壊とも呼ばれる、アラル海の消失。テクノロジーや経済が十分に発展した現代では、もう発展するのはそこそこにして、今一度、私たちが生き、私たち自身が壊したこの地球の環境の再生に尽力しては、と思うのは私だけだろうか。

参照元:FacebookNASABBCInstagram[1][2][3][4][5][6]

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マル太

身長185cmのうどの大木。最近、筋トレはまってます。プロテインはバニラ味よりチョコ味派。好きな食べ物はささみフライ。はまった言葉は、「どうにかなるさ」。基本休日はボーっとしている大学生です。

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