悲しくも美しい顔面タトゥーの伝統はもうすぐ消滅する
古くから受け継がれる伝統はどの国にも存在する。ミャンマーのチン州、ラカイン州に住む女性は顔にタトゥーを入れるのが伝統。この顔面タトゥー文化の起源となったものは明らかとなっていないが、はるか昔、中世のころからの伝統ではないかと信じられている。
顔面のタトゥーは他民族との区別と、他民族による女性の誘拐を防ぐために始まったそうだ。元々は他民族との区別の意味合いが強かったこのタトゥーだが、チンの女性が美しいと別の地域に知れ渡り女性の誘拐が相次いだため、それを阻止するために成人すると顔にタトゥーを施すことで美しい顔を醜くし、連れ去られないようにしたというのだ。
この伝統は1960年代に政府により禁止され、それ以降に成人した女性には施されなかった。現在70歳以上の女性しかこの伝統的な顔面タトゥーをしていない。つまりこの女性たちがいなくなってしまったらこの伝統は消滅するのだ。
彼女たちが暮らすミンダ地区は政府により観光客の訪問を制限されていた。2年前に年700人まで観光可能になってからも彼女たちが過ごす集落は孤立したところに位置するため、観光客が彼女たちを目の当たりにすることはない。静かに一つの伝統がなくなろうとしている。
彼女たちにとってはつらい歴史でもある
タトゥーを入れる儀式の前はサトウキビとお茶を飲むことしか許されず、肉やピーナッツは禁止された。
墨を入れる方法は今みたいに衛生的ではなかった。針の代わりに竹や草木のトゲを利用し、墨の原料は牛の胆汁、炭、植物、豚脂を混ぜ合わせて作られたものだった。聞くからにとても衛生的とは思えない。感染症の恐れもあり、命を落としてしまうものもいたという。
タトゥーの外枠を描くのに1日。さらに2、3日かけて墨を沈着させていく。この間、激痛が走り続ける。特に首の周辺がひどく痛むと彼女たちは声をそろえて言った。タトゥーを入れられているあいだ、顔面は血に染まる。強い痛みは3日は続き、気休めの痛みどめとして新鮮な豆の葉を顔に塗り、とにかく痛みに耐えるしかなかった。
この時代、男性は顔にタトゥーを入れている女性しか好まず、結婚したければタトゥーを入れるしか選択肢がなかったという。なんとも悲しい歴史だ。
悲しいけれど、いま美しく輝く彼女たち
過去の歴史は悲しい。しかし、今彼女たちの姿を見ると伝統を受け継ぐものとして高貴にさえ見える。伝統的な方法で痛くつらい想いをする人がいなくなり良かったと思う反面、この美しい伝統がもうじき世界からなくなってしまうと思うと、少し残念にも感じるのであった。
参照:Mirror